沖縄出身のイラストレーターpokke104(ポッケイチマルヨン)さんの新作が完成したとの噂を聞きつけ、見せてもらったF50号サイズの手描きの絵。テーマは「珊瑚と花」です。
水をテーマにシリーズ化した、珊瑚の産卵と「珊瑚と花」。珊瑚礁に住む生き物や山の自然から自身が影響を受けたラインや色を使い、命の繋がりや生命力、優しさなどを水泡で表現した作品です。
pokke104さんは、TEDx RYUKYUでスピーカーを務めた経歴の持ち主。現在は、東京を拠点に沖縄でも活動するイラストレーターです。
自分のフィルターを通して「私には何を伝えられるだろうか?」と表現方法を常に模索し続けながら、精力的に活動しているのが「沖縄の自然や伝統工芸」をモチーフにしたストーリーや作品づくりです。
イラストレーターとして活動するまでの道のり、そして「運」と「出会い」と
大規模なイベントのイラストから、壁画やライブペイントまでと幅広い仕事をこなし、主に広告系のイラストを描く機会が増えてるものの、沖縄の海の生き物を題材にしたモノづくりや大人数のワークショップを得意としています。
コツコツと実績を積み上げながら、意外にも泥臭い道のりを歩んできたpokke104さん。
お話を伺ったあと、とても印象に残った言葉が「出会い」と「運」。
「あの時の出会いがあって、運があってこそ、現在のpokke104が存在する」
そんなイラストレーターのサクセスストーリーをインタビューも交えながらお届けします。
■現在は大規模なイベントのイラストや壁画を手掛け、海外でも仕事をこなしていますが、イラストレーターになるまでの道のりは、割りとスムーズに?
いえいえ、全くです(笑)。子どもの頃から絵を描くのが好きで、漠然と「モノ作り」をしたいと思っていました。何かを作り上げて世に出る!みたいな。でも当時はイラストレーターという仕事があるのを全く知らなくて(笑)。
高校卒業後は、ホテルに勤務しながらホテルの専門学校に夜間通っていました。でも何かが違う。やはり絵を描きたいと思い、職業訓練校に1年間通って印刷全般を学んでから広告代理店に就職しました。私が文字詰めしたチラシが初めて印刷されたとき、思わず感動しましたね。まだデザインとか全くできなかった頃の話です(笑)。
23歳から本格的にフリーのイラストレーターとして活動し始めたのですが、これが全く食べていけない(笑)。結局、アルバイトで雑誌のデザインやイラストの制作をして、とにかく何でもやりましたね。それと同時にカフェのスペースを借りて月に1度は展示会を開催していて、月に3回ライブペイントをやっていた時期も。
とにかく動く、自分を露出する。
あの当時は気力も体力もあり過ぎたのか、常に走り続けている感じで。あと基礎って本当に大事だなと痛感しました(笑)。
■月に1度の展示会!?精力的に活動していたのですね。どんな展示会を開催してたのでしょうか?
最初の展示会では、1ヶ月間で約50点の絵を描いて、楽しくもありなかなか大変でした(笑)。でも、そのときの作品が自分の作風の土台になっています。
いつもと違う展示会をしたくて、沖縄のバルーンアートのパフォーマー・ピエロのクラウンコトラさんとコラボしたことも。私の描いた絵をコトラさんがバルーンで立体的に再現するんです。バルーンの中に絵を入れたり、バルーンだらけのバルーン畑にしてみたりと遊び心も入れて。
ある日、コトラさんが視覚障害のある男の子を連れて来て。彼は、私の絵が立体的になったバルーンを触ってこう言ったんです。「へえーこういう絵なんだね」と。彼が解き放った言葉にもの凄く感銘を受けました。アートっていろんなカタチで楽しめる、そう思ったんですね。
そして、アートを楽しむ多様な空間を作っていきたいと考え始めたんです。
■男の子との出会いがpokke104さんにアートの奥深さを教えてくれたと。壁画はいつ頃から描き始めたのでしょうか?
壁画も人との出会いから始まってるんです。まだガラケーが主流でFlashの動く待ち受け画像が流行っていた頃、東京のアーティストさんとmixiで繋がってコラボレーションすることになりました。私の絵をアニメーションにしてくれてダウンロードもできる(笑)。
たまたま東京に訪れたとき、その待受画像を見てくれてた方と偶然に出会ってトントン拍子に壁画の話が進んでいき、あれは運命の出会いとしか言いようがないですね。その方のショップが表参道にあってフィッティングルームに壁画を描いてくれない?と声をかけてもらったのが、初めての壁画です。3日間かけて描き上げたのを覚えています。
そのとき、自ら「これがやりたい」と言い続けることって大事だなと思いました。その後は、やりたいことがあったら自ら人に話すようにしています(笑)。するとチャンスに出会う機会が増えてきて、自分と似た考えや意識を持つ人たちと自然に繋がていきました。
自分の実体験をベースに!沖縄の海をテーマに慶良間諸島の「座間味島の海」を発信
ダイビングスポットとして名高い慶良間諸島。その中に属する座間味島といえば、冬場はホエールウォッチングが楽しめます。
もともと慶良間諸島が大好きで休日を利用しては、船で離島を行き来していたpokke104さん。
阿嘉島の子どもたちとのワークショップをキッカケに、座間味島、阿嘉島、慶留間島の地元の人たちとごく自然と仲良くなり、その会話の中から派生したのが座間味島の仕事だったそうです。
7〜8年前から座間味島のクジラを描いたカレンダーを制作し、2014年度の座間味村観光大使にまで就任してしまったpokke104さん。
沖縄の海といえば、座間味島の海のイメージが強いと話す彼女の中には、慶良間諸島での実体験そのものがベースになっていたのです。
■沖縄の海をテーマにした活動が多い中、慶良間諸島でのどのような実体験をベースに展開してるのでしょうか?
実は20歳のとき、初めてダイビングを体験したのが「慶良間諸島」だったんです。初めて海底に潜って味わった感覚や感動そのものを自分の実体験に基いて伝えていきたい、そう思ったんですね。
沖縄の海の生き物と直に出会ったことで、生き物同士の繋がりや魚の生態系が妙に面白く感じるようになってその好奇心から海の生物、特に沖縄の魚について調べるようになりました。もともと調べることが好きでたぶんこれは趣味ですね(笑)。
私は海の専門家ではないので、どうしたら沖縄の海の良さを伝えられるのかを考えて、写真や資料を見てもらおうとか、初めて慶良間諸島の海に潜ったとき自分が感じたことを伝えてみようと。
沖縄に住んで、沖縄を知り、沖縄の良さやキレイな海を知っている。それを伝える活動の一環としてワークショップを開催しています。
■一般的には少人数制のワークショップが多い中、巨大クジラを描くOIST(沖縄科学技術大学院大学)での大規模なワークショップも開催していましたよね?
OISTでの巨大クジラを描くワークショップはだいぶ大掛かりでしたね。フリーで活動し始めた頃から、少人数のワークショップを月1回開催していたのですが、今は私が得意とするのが大人数でのワークショップなんです。
ワークショップをやらせてください!と自ら企画を持ち込んだ時期もありますが、今は東京で開催する沖縄のイベントが増えてきて声をかけてもらえるようになり、本当に嬉しい限りです。
今でもワークショップの企画は自分で考えることが多くて、東京の人がまだ知らない沖縄を学べるような機会にできたらと。
イラブチャーとかグルクンとか、沖縄の食卓に並ぶ魚を一緒に描く。釣り雑誌や海の生き物の生態本を見せながら、子どもたちに描いてもらうんです。それが結構おもしろくて、無意識に沖縄の知識がつくんですよね。
ここ最近のワークショップでは、座間味に関するものを描くことが多いかもしれません。
土地によって異なる海の生き物がいること、そして座間味の海ってこんなにキレイなんですよと伝えていきたい。そんな自分の思いをライブペイントや企画展にも入れている感じです。
今後の活動は海外に向けて!Pokke104の挑戦
この夏、pokke104さんは千葉の銚子にいました。あるプロジェクトの一環で地元の学生や子どもたちと一緒にワークショップを開催するためです。
2014年1月、脱線事故を起こした銚子電鉄を復帰させようと千葉の銚子の学生さんたちが呼びかけたクラウドファンディング。目標金額の300万を上回る支援を募り、2015年4月に銚子電鉄は復活を遂げました。
そして2015年12月、東京支社50周年を迎えた沖縄ツーリストが銚子電鉄とコラボレーションして駅のネーミングライツの契約を結び、銚子電鉄の犬吠埼駅を「One Two Smile(ワンツースマイル)OTS 犬吠埼温泉」と命名。東日本大震災後、壁が破損したまま老朽化した「OTS 犬吠埼温泉駅」を修繕しようと、「銚電メイクアッププロジェクト」が立ち上がりました。
そこで抜擢されたのが、イラストレーターのpokke104さんです。
「せっかくならば、銚子の見どころを壁画で描きましょう!」
「地元の子どもたちに描いてもらうのはどうでしょう?」
と自ら提案し、毎回修繕費用がかかるのは大変だからと地元の人たちが自分たちの力だけで壁を修繕できるやり方を教えます、それをワークショップでやりましょう!とも提案。参加した子どもたちが大人になった時、潮に強い塗料や道具の選び方とか壁の作り方とか、自分たちだけで壁画の修繕ができるようになれたら。
この提案力こそが、pokke104 さんの最大の魅力なのかもしれません。
そして、pokke104さんは言います。
「アイデアの発想って何気ない日常の中から生まれてきます。無駄に思える日常の欠片が栄養の肥やしにもなる。だから普段気にしてないことを少しだけ気にかけてみる。それをどう感じるかが大事なんだろうなと思うんです。私の場合、気になったことをいつもネタ帳にメモしていて自分のアイデアは既に何かから、誰かから得たものを出しているんだと思います。そこにプラスαすることで新しいアイデアに生まれ変わる。まだ言語化されてない部分を見つけてあげることで発想力や企画力を生み出すのかなと」
海外へとフィールドを広げて、各国の言葉が交差する場所でワークショップを開催するのがひとつの目標。アートは世界共通、だから沖縄のことや自分の誇れるものをベースにモノづくりをして、いろんな企画を提案していきたいとビジョンを語ってくれました。
どの場所にいても制作できる、モノ作りを。
今後は、家族や応援してくれた人たちとの繋がりや時間を大切にしながら仕事を続けていきたいと語る彼女の姿には、「今は少しだけ歩みをゆっくりと、そして着実に」との強い信念が潜んでいるのでしょう。
pokke104(池城由紀乃)
http://www.pokke104.com/
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